IoTセンサーを自作するとき最初に決めるべき通信方式。LoRa・LTE・Wi-Fiの選び方
こんにちは。TIFFIN開発チームです。当社は業務システムだけでなく、電子回路・基板からファームウェアまで作るIoT開発もやっています。田んぼの水位を見張る「みずばん」、果樹園の獣害・盗難を見張る「はたばん」——どちらも新潟の農業現場向けに設計してきた装置です。その経験から断言できるのは、IoT装置の設計は、センサー選びよりも先に「通信方式」で9割決まるということです。通信方式が決まると、電源、筐体、設置方法、月々のランニングコスト、ぜんぶ連鎖して決まります。この記事では、LoRa・LTE・Wi-Fiという代表的な3方式を、カタログスペックではなく現場目線で比べます。
なぜ通信方式を最初に決めるのか
IoTの相談は「このセンサーで測りたい」から始まることが多いのですが、測ること自体はたいてい難しくありません。難しいのは測った値を、電源も配線もない場所から、毎日安定して届け続けることです。
通信方式はここに直結します。たとえば通信に電力を食う方式を選べば電池では持たず、ソーラーパネルとバッテリーが必要になり、筐体が大きくなり、設置ポールが必要になり、コストが跳ねます。逆に省電力な方式を選べば乾電池で1シーズン持つ小さな箱にできるかもしれない。「何を測るか」より「どう届けるか」が装置の姿を決めるのです。
Wi-Fi:電源と建物があるなら最有力
意外かもしれませんが、条件が合うならWi-Fiがいちばん楽で安上がりです。マイコン(ESP32など)に最初から載っていて、部品代の追加ゼロ、通信費もゼロ。工場や店舗、事務所の中の見える化ならまずWi-Fiを検討すべきです。
弱点ははっきりしていて、建物のWi-Fiが届く範囲でしか使えないこと、そして意外と電力を食うので電池運用に向かないことです。コンセントが取れる屋内、と覚えてください。あとひとつ現場の注意点として、お客様の社内Wi-Fiに装置をぶら下げる場合は、パスワード変更やルーター入れ替えで装置が全部沈黙する事故が起きがちです。設置時に「Wi-Fiを替えるときは連絡ください」と一言添えるだけで、後日の「動かない!」の何割かは防げます。
LTE:1台だけ置くならいちばん簡単
スマホと同じ携帯回線(LTE、IoT向けの省電力版であるLTE-M/CAT-M1を含む)を装置に持たせる方式です。SIMを挿せば携帯の電波が届く場所ならどこでも通信できる。設置の自由度は圧倒的です。
- 長所:基地局はキャリア任せ。中継設計が不要で、1台からすぐ始められる
- 短所:1台ごとに月々のSIM代がかかる。台数が増えると通信費が積み上がる
- 短所:通信モジュールが比較的高価で、消費電力もそれなり
つまりLTEは「台数が少なく、場所がバラバラ」な案件に向きます。逆に「同じ地区に10台20台置きたい」となった瞬間、毎月のSIM代×台数が重くのしかかってきます。ここで次のLoRaが出てきます。
LoRa:通信費ゼロで飛ばす。ただし設計力が要る
LoRaは免許不要の920MHz帯を使う省電力・長距離無線です。見通しが良ければ数kmを飛ばせて、通信費はゼロ。乾電池でも長期間動かせるほど省電力です。数値ひとつを1日数回送るような用途には理想的に見えます。
ただし、タダで飛ばせる代わりに自分で「網」を設計する必要があります。
- 電波は地形と障害物に素直に負けます。田んぼは開けていても、集落や林を挟むと届かない。現地での電波確認(置いてみて測る)は省略できません
- 届かない区間は中継機を立ててバケツリレーする必要があり、中継機にも電源(たいていソーラー)が要ります
- 送れるデータはごく小さい。数値やフラグはOK、写真は実質NG
もうひとつ重要なのが、LoRaはあくまで「近くの親機まで」の無線だということです。集めたデータをクラウドに上げるには、どこかに1台、インターネットへの出口(ゲートウェイ)が必要になります。
実例1:みずばんは「LoRaで集めて、LTEで1本出し」
ここまでの話が全部入っているのが、田んぼの水位を見張る「みずばん」の構成です。

田んぼの見回りは1枚では終わりません。農家さんは何枚もの田んぼを持っていて、センサーも複数台になります。全部にSIMを挿すと通信費が台数分かかる。そこで、各センサーはLoRa(920MHz)で親機へ飛ばし、LTE回線を持つゲートウェイ1台が全員分をまとめてクラウドに送る構成にしました。月々の通信費はゲートウェイの1回線分だけ。センサー側は省電力なので電源の制約もゆるくなります。届きにくい田んぼには中継機を挟んで網を伸ばします。
ついでに現場ならではの話をひとつ。水位の測り方も「水に何を沈めるか」で悩みどころで、みずばんでは泥や浮きゴミの影響を受けにくいよう、圧力式センサーを地中の有孔管の中に収める方式を選んでいます。通信・電源・センサーの三つ巴で落としどころを探すのがIoT設計の実際です。
実例2:はたばんがLTE直結にした理由
一方、畑や果樹園の見張り装置「はたばん」は、カメラ付きセンサーがLTE(CAT-M)でクラウドに直結する構成です。みずばんと逆の選択をした理由は2つあります。

1つ目は送るデータが画像だから。侵入を検知したら現場の写真をスマホに通知するのが装置の価値なので、数値しか送れないLoRaでは成立しません。2つ目は台数が少ないから。見張りたいのは出入口や獣道など要所の数か所で、田んぼのように面で数を並べる必要がない。それならSIM数枚分の通信費を払っても、中継網を設計・保守するより安くて確実です。
同じ農業IoTでも、送るもの(数値か画像か)と台数で正解が逆になる。これが「通信方式を最初に決めるべき」と言う理由です。
決め方チェックリスト
| Wi-Fi | LTE(LTE-M含む) | LoRa | |
|---|---|---|---|
| 通信費 | ゼロ | 1台ごとに月額 | ゼロ(出口に1回線) |
| 届く範囲 | 建物の中 | 携帯電波の圏内どこでも | 数百m〜数km(要現地確認) |
| 電池運用 | 不向き | 条件付きで可 | 得意 |
| 画像・動画 | 得意 | 可 | 実質不可 |
| 台数が増えたら | 強い | 通信費が積み上がる | 強い(網の設計は必要) |
| 向く案件 | 屋内の見える化 | 少数・点在・画像あり | 多数・面で並べる・数値のみ |
迷ったら、この順で自問してみてください。
- 設置場所に電源はあるか?——なければ省電力方式+ソーラーの検討から
- 送るのは数値か、画像か?——画像ならLoRaは外れる
- 台数は?——数台ならLTE、数十台をひとつの地区に置くならLoRa+ゲートウェイ
- そこは携帯の圏内か?——山あいでは意外と落とし穴。現地確認を
TIFFINは基板の設計からファームウェア、クラウド側の画面まで一気通貫で作れる体制です。「こんなものを見張りたい」の一言から、通信方式の選定と概算をご一緒します。
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